大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成元年(ワ)203号 判決 1990年7月27日

原告 株式会社 共立ホーム

右代表者代表取締役 千葉芳久

右訴訟代理人弁護士 斉藤基夫

被告 馬場雅広

右訴訟代理人弁護士 馬場亨

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、九一万五七二〇円及びこれに対する平成元年四月二三日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告は共に建築請負業者である。

2  原告は昭和五九年四月二八日小林末男(以下「小林」という。)からの元請負人である被告との間に、小林宅新築工事の下請負契約(請負代金九一〇万円)を締結し、またその頃、右工事の特別仕様工事の請負契約(請負代金八〇万円)を締結し、さらに右両工事の施工中、追加工事の請負契約(請負代金七〇万円)を締結した。

原告は右各工事を同年七月一五日までに完成して被告に引渡したが、被告は右下請負代金合計一〇六〇万円のうち六五〇万円を支払ったので残代金は四一〇万円となった。

3(一)  その後原告から右下請負残代金四一〇万円につき債権譲渡を受けた小林は、被告に対し昭和五九年一一月一五日頃到達した書面で、右譲受債権と小林の被告に対する元請負残代金債務を対等額相殺する旨の意思表示をした。

(二) 被告の小林に対する本件元請負の残代金請求訴訟(当裁判所昭和六〇年(ワ)第一五九号、以下「前件訴訟」という。)において昭和六三年四月一三日言渡された判決(以下「前件判決」という。)では、小林の被告に対する元請負残代金債務は三一八万四二八〇円であると認定されたため、相殺後の前記譲受債権の残額は九一万五七二〇円となった。

(三) 前件判決確定後の平成元年三月一日、小林は右九一万五七二〇円の残債権を原告へ債権譲渡し、被告にその頃通知した。

4  よって原告は被告に対し右九一万五七二〇円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成元年四月二三日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1、2は認める。

2  同3(一)は認め、同(二)(三)は否認する。被告の小林に対する元請負残代金債権は五三二万五四〇九円であり、右債権に対し、小林は原告から譲受けた前記四一〇万円の債権で相殺の意思表示をしたから、その時点で原告が小林へ譲渡した下請負残代金債権は全額消滅した。原告が本訴で請求する部分には前件判決の既判力は及ばない。

三  抗弁

仮に原告主張どおり、被告が九一万五七二〇円の下請負残代金債務を負うとしても、右債務は(1)被告が原告に最後に下請負代金を支払った昭和五九年一〇月二三日の翌日から三年を経過した昭和六二年一〇月二三日の経過により、あるいは(2)小林が前記相殺の意思表示をした日から三年を経過した同年一一月一五日頃の経過により時効消滅したので、被告は右時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

否認する。

五  再抗弁

仮に原告が本訴で請求する下請負代金につき消滅時効期間が満了したとしても、被告は本訴における口頭弁論期日において、本訴請求を含む未払の下請負代金四一〇万円の存在を認めているから、時効利益を放棄したものである。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2及び同3(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  右争いがない事実と、《証拠省略》によると、次のとおり認めることができる。

1  被告は昭和五九年三月一二日、小林との間に小林宅新築工事の請負契約を締結した(当初の請負代金一一五五万円、以下「本件元請負契約」という。)。

2  原告は被告との間に、同年四月二八日小林宅新築工事の下請負契約(請負代金九一〇万円)を締結し、またその頃、右工事の特別仕様工事の請負契約(請負代金八〇万円)を締結し、さらに右両工事の施工中、追加工事の請負契約(請負代金七〇万円)を締結した。原告は右各工事を同年七月一五日までに完成して被告に引渡し、被告は右同日新築建物を小林に引渡した。

原告は以上の下請負代金合計一〇六〇万円のうち六五〇万円の支払を受けていたので、原告の被告に対する下請負残代金債権は四一〇万円であった。

3  しかしその後注文者である小林と被告間で右工事内容につき争いが生じ、小林の元請負代金、及び被告の下請負代金の各支払につき紛争が生じた。そのため原告は同年一一月一二日小林に対し右下請負残代金四一〇万円の債権譲渡を行い、被告にその頃その旨通知した。そして小林は同月一五日頃被告に到達した書面で、右譲受債権を自働債権として被告に対する元請負残代金債務と相殺する旨の意思表示をした。

4(一)  その後被告が小林に対して提起した当裁判所昭和六〇年(ワ)第一五九号請負代金請求事件(前件訴訟)で、被告は、小林との間に本件元請負契約(請負代金一一五五万円)を締結し、その後追加工事として、カーテン・ブラインド・レール取付工事(請負代金二六万二八五九円)及び浴槽変更、間仕切、給湯工事等(請負代金一五一万二五五〇円)を請負い、これらを完成引渡したが、そのうち八〇〇万円の支払を受けたから、残代金は五三二万五四〇九円になると主張して、その支払を求めた。

(二)  これに対し小林は、カーテン・ブラインド・レール取付工事の請負代金額は二〇万円であると主張し、浴槽変更、間仕切、給湯工事等の追加工事の請求原因に対して浴室採光FIX代金等二万二五〇〇円のみ認め、他は本件元請負契約の範囲内の工事であり追加工事でないと主張して残代金額を争い、抗弁として、契約仕様と実際の仕様の相異による代金減額請求権(五八万八二二〇円)を行使し、さらに右減額後の残代金債務に対して、前記3の譲受債権による相殺を主張した。

(三)  前件訴訟において同裁判所は昭和六三年四月一三日、被告の小林に対する債権として、当初契約分一一五五万円の外は、カーテン・ブラインド・レール取付工事分として二〇万円、及び追加工事のうち浴室採光FIX代金等二万二五〇〇円のみを認め、かつ小林の五八万八二二〇円の代金減額請求権の抗弁を認めた結果、既払分八〇〇万円を除く残代金は三一八万四二八〇円であると認定し、さらに原告からの譲受債権四一〇万円の存在を認定して昭和五九年一一月一五日頃の対等額相殺を理由があると判断して、被告敗訴の判決(前件判決)を言渡し、右判決は昭和六三年五月七日確定した。

以上によると、小林の被告に対する元請負残代金債務は三一八万四二八〇円であったと認めることができ(当裁判所も前記各証拠により右4(三)の前件判決の判断を正当と認める。)、そうすると相殺後の前記下請負代金債権の残額は九一万五七二〇円となる。

これに対し被告は、本訴においても、被告の小林に対する元請負残代金債権は五三二万五四〇九円であったと主張する。しかしながら被告の右主張は、前記4の前件訴訟の経緯に徴すると、前件判決理由中の小林の被告に対する元請負残代金債務は三一八万四二八〇円であるとの判断について生じる争点効、ないしは信義則に反するものとして許されず採用できない。

三  《証拠省略》によると、請求原因3(三)の事実を認めることができる。

四  《証拠省略》によると、被告が原告に最後に本件下請負代金を支払ったのは昭和五九年一〇月二三日であるから、右請負代金債権は右翌日から三年を経過した昭和六二年一〇月二三日の経過により消滅時効期間が満了したものと認められる(民法一七〇条参照)。

そして被告が本件口頭弁論期日において右消滅時効を援用した事実は、当裁判所に顕著である。

五  原告は被告が本件口頭弁論期日において、時効利益を放棄したと主張するが、被告が請求原因2の事実を認めたからといって、弁論の全趣旨によると、被告が本訴請求債権の存在を争っていることは明らかであり、時効利益を放棄したものとは認められない。したがって再抗弁は理由がない。

なお前記二3によると、相殺の意思表示は裁判外で昭和五九年一一月一五日頃行われたが、前記各証拠によると、小林ないし原告は前件訴訟において、相殺後の下請負代金残額を請求する意思を表明してなく、また《証拠省略》によると、被告は昭和六三年当時、前件判決の理由に基づき、相殺後の下請負代金残額につき更に請求されるとは考えていなかったため、前件判決を確定させた事実が認められる。そうすると前件訴訟における相殺の判断は、本訴請求債権について、裁判上の請求ないしはそれに準ずるものとして時効中断事由になるとは認められない。また仮に前件訴訟における右相殺の判断がいわゆる裁判上の催告になるとしても、原告は前件判決確定後六か月内に本訴を提起していない(本訴提起は平成元年三月八日)から、時効は中断されない。

六  よって本訴請求債権は時効消滅しているので、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷正俊)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例